色と心の関係 その2

もう何年も前になりますが、30代前半の女性がカウンセリングルームにご相談にいらっしゃいました。
公務員のその女性は、職場でひとり浮いた感じがしている、親しい友人も恋人もいない、これまで特に好きになった男性もいない、自分の容姿に自信がもてない、これからどうやって生きていくのか自分ではわからない、と様々なお悩みを並べました。

元々、おとなしめで、積極的な性格のかたではなさそうですし、カウンセリングにいらっしゃるのもずいぶん悩んだ末に、という感じでした。
これらの中で、あなたが一番解決したいことは何でしょうか?という質問にも
 特にどれが一番というのはありません。そもそもこういうことを人に相談することもどうなんだろう、って思いながら来ました。
とのこと。

この日の彼女の服装は、黒いTシャツにグレーのジーンズでした。
お仕事の時はほとんど白いシャツと黒か紺のパンツだそうです。
明るい色や柄のあるお洋服は着ませんか?との問いには、そういうのは私には似合いませんから、という答えが返ってきました。

これは、鶏が先か卵が先か、のような状況なのだと思うのです。
つまり、暗い色を着るから気持ちも暗くなるし、気持ちが暗いから明るい色に手が伸びない。
まして、自分には似合わないと思い込んでいるから明るい色は身につけない。
明るい色を身につけないから心は暗いままになってしまう。

もちろん、今まで着たことのない色を初めて身につけるのには勇気がいるでしょう。
ですから、いきなりオレンジや赤を勧めるわけではありません。
たとえば、白いシャツばかりを着ているのであれば、薄いブルーやピンクにしてみる、織柄のはいっているものにしてみる、など、徐々に変えていけばよいでしょう。
似合わない、と思い込んでいるから今まで試したこともなさそうです。
けれど、どんな色でも似合うか似あわないかは、試してみなければわかりません。

実は私も、若い頃は彼女と似たような状況でした。
私の母は、私が子供の頃から落ち着いた地味な色しか私には選んできませんでした。
赤やピンクや黄色など明るい色は、可愛くないあなたには似合わないから、という理由でした。
そんな母の言葉の呪縛によって、明るい色は似あわないと思い込み、私はいつも、黒紺茶グレーのような色の服装ばかりでした。
自分の容姿にも全く自信がもてませんでした。
なので私は、人前で鏡を覗いて自分の姿を見る、ということもできなかったのです。

大人(20代)になったある日、デパートのバーゲンセールのワゴンに並べられたセーターを物色していた私は、ピンクのセーターを手に取ったものの、「私には関係のない色」ということでさっさと放り投げて他のセーターを探し始めました。
すると、私の隣にいた見ず知らずの年配の女性が、「あら、あなた、その色はあなたにぴったりの色なのに、どうして放ってしまうの?」と声をかけてきました。

(まさか!私がピンクを着るなんて!)
「いいえ、私、こういう色は着たことないのです。」
「とっても良くお似合いよ、もったいないわよ、若いのに地味な色ばかり着ていたのでは。」
「そ、そうですか・・・?」
私はこわごわと、放ってしまったそのピンクのセーターを手に取り、肩の辺りから当ててみました。
「ほら、とっても良く似合っている。それになさいな。」

なんとなく断れる雰囲気でもなかったので、思い切って私はそのピンクのセーターを買うことにしました。
初めてそのセーターを着て外出するのは少し恥ずかしくて勇気がいりましたが、仕事に着ていきました。

すると、職場で皆が口々に、「あなたがそういう色を着るなんて珍しいわね、でもよく似合っているわよ。今度からそういう明るい色を着た方が良いんじゃない?」と言うのです。
人から褒められると、悪い気はしません。
そして、自分の気持ちも少し明るく晴れやかになったと実感できました。

それ以来、私は躊躇なく明るい色の服装を選ぶようになりました。それにより私自身の心も前向きになり、笑顔が増えたような気がします。
あの見ず知らずのご婦人の一言が、私を変えてくれたのです。感謝してもしきれません。

あれから何十年も経った今、私にとってピンクはとても大切な色、大好きな色、になりました。
もっともっとおばあちゃんになっても、明るい色を選んで「可愛いおばあちゃん」になりたい、そう思っています。

カウンセリングルーム ローズマリーは、
東京の府中と東神田にある、女性のためのこころの相談室です。

ホームページはこちらから