生みの親と育ての親

実の親が子供を虐待する、命を奪う、再婚相手の子供の命を奪う。そのような痛ましい事件があとを絶ちません。

このような事件の報道がありますと、血のつながりがあるとか無いとか、そういうことも含めて、親子ってなんだろう?と考えてしまいます。

生みの親より育ての親、という言葉もありますが、そうとばかりも言えません。
なぜなら私は、時折、小学校の友だちのHさんのことを思い出し、胸が痛みます。

目がクリクリと大きくてかわいらしいHさん。
Hさんの家に遊びに行くと、お母さんがいつも嬉しそうに私たちを迎えてくれ、手作りのおやつでもてなしてくださいました。
お父さんが家にいらっしゃるときは、一緒にゲームなどをして遊んでくださいました。

お父さんもお母さんも、Hさんのことが可愛くてたまらない、という様子がとても伝わってくる、そんなご家庭でした。

運動会や遠足の時にHさんはいつも、色鮮やかで美味しそうな、食べきれないほどの3段重ねのお弁当を持たされ、私は羨ましい気持ちでそのお弁当を眺めていました。

私の母はお弁当作りが苦手というか大キライで、お弁当はいつも、卵焼きとウィンナーと唐揚げとおにぎり、と決まっていました。

私が3年生になった頃には、「女の子なんだからお弁当くらい自分で作りなさい。」
母親がお弁当を作らないのは娘のためだ、と言わんばかりでした。

それで私は、学校の行事のたびに家にある材料とにらめっこをして、自分で粗末なお弁当を作っていましたので、Hさんのことが羨ましくてたまりませんでした。

ある日、学校でHさんから「私のいとこのMちゃんよ。」と、2学年下の女の子を紹介されました。
その子はHさんとそっくりのお顔をしていましたので、私は「わ~、よく似てるね!!」とビックリして言いました。

あとでHさんの近所に住む別のお友だちから「HさんとMちゃんは、本当はきょうだいなんだよ。Hさんは子どものいない伯父さんの養女なの。HさんもMちゃんも、そのことは知らないんだけどね。」

そうなんだ・・・。

私は子ども心にも、これは絶対に人には話してはいけない事なんだ、と認識したのです。

小学校を卒業して10年以上経って、クラス会がありました。
大人になってから初めてのクラス会でしたので、疎遠になっていたクラスメイトの顔を見ても、最初は誰なのかわかりません。
でも、名前を聞けば、あ~~っ!と子供の頃の顔と結びつき、面影があることに気づきます。

そんな時、だいぶ遅れて入ってきた女性を見て、みんなビックリ。

あれは、誰?
会場内が一瞬し~んとしました。

最初は全くわからなかったのですが、ほどなくして私は「あ、Hさんだ!」と気づきました。

彼女の髪はリーゼントというのでしょうか?つっぱりの男子学生が当時していた髪型になっていて、あのクリクリした大きな目はギョロギョロっとして、ちょっとコワイ形相をしていました。

可愛かったHさんの面影はどこにもありません。

その後の近況報告の時の彼女の話を聞いて、クラス会はしんみりとしたものになりました。

その内容というのは、、、

高校受験のあと、学校に提出する戸籍謄本(当時は高校入学時に戸籍謄本を提出していたのです)を前に、オッサン(とHさんは言いました)から話を聞いて、お父さんと思っていたオッサンは本当は伯父で、いとこと思っていたMちゃんは妹だと知った。

叔父さん、叔母さんと思っていた人が私の本当の親だった。私は長いこと皆に騙されていたとわかり、ショックで自殺未遂をした。
だから高校もろくに行っていない。
今は生みの親の所に戻って一緒に住んでいる。
オッサンもババアも、私のことをずっと騙していた。裏切られた。絶対に許せない。

そう話してビールを一気に飲み干すと、Hさんはこれから仕事があるから、と退席。

その後、担任の先生も「ずいぶん様子が変わって、誰なのか全くわからなかったなぁ。」と戸惑いながらおっしゃいました。

Hさんにしてみたら、自分の出自の真実は、自殺したくなるほどの衝撃だったに違いありません。
周囲の皆から裏切られた被害者だ、という気持ちになったのも無理はありません。
これまで実の両親と信じて疑わなかった事が覆されてしまったのですから。

けれど私は、育ててくださった、あのお父さんとお母さんのことを思うと、胸が締め付けられるようでした。
あんなに大切にHさんを育てていたのに。

お二人は、どんな思いでHさんを生みの親に戻したのだろう。
そして、今はどんな思いをしてお二人で暮らしているのだろう、と。

あのクラス会から、すでに何十年も経ちました。
私が出席した小学校のクラス会もそれが最後です。クラス会の開催の連絡もありませんし、Hさんのその後を知る由もありません。

彼女はその後、自身の手で子どもを育てたのでしょうか。
それとも、子どもを育てることなく、今のこの年齢になっているのでしょうか・・・。

私は今でも時々Hさんのことを思い出しますと、やり場のない複雑なもやもやした思いが波のように押し寄せてきます。
生みの親より育ての親と言いますけれど、やはり血がつながっていなければ親子にはなれないのでしょうか。

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